人材不足や人材定着、管理職育成など、「人」に関する課題に対して、どんな施策を行えばいいのか。
研修を増やす。1on1を始める。新しい制度をつくる。
さまざまな方法がありますが、その前に必要なのが、「今、自分たちの組織で何が起きているのか」を把握することです。
地域福祉に関わるある法人で、管理職の方々を対象とした1on1を実施しました。
今回の主な目的は、研修の効果測定でも、管理職の悩み相談でもありません。
今後の人材施策を考えるために、組織課題を把握すること。
そのための取り組みの一つとして、管理職研修を実施し、その後、一人ひとりと面談する機会を設けました。実際に話を聞いてみると、アンケートや会議だけでは捉えにくい、さまざまなことが見えてきました。

この記事の要点
- 管理職1on1は、個人の悩みだけでなく組織課題の把握にも活用できる
- 研修後に実施すると、学びと実際の職場をつなぎやすい
- 外部の第三者だからこそ聞ける現場の声がある
- 個人が特定されない形で傾向を整理し、次の人材施策へつなげることが重要
なぜ、組織課題の把握に管理職1on1を行うのか
組織の状態を把握するとき、管理職は重要な立場にいます。
自分自身も現場の仕事を担いながら、部下を見て、上司ともやり取りし、部署やチームを動かしているからです。つまり、経営と現場の両方が見えやすい立場でもあります。
一方で管理職自身は、日々の業務に追われています。目の前の仕事を回すことが優先され、部下育成まで十分に手が回らない。マネジメントについて迷いがあっても、ゆっくり振り返る時間がない。そんな状態になっていることもあります。
組織として何が起きているのかを見るためには、管理職から現場の状況を聞くだけではなく、管理職自身が今どんな状態にあるのかを見ることも必要です。
研修のあとに1on1を行った理由
今回、いきなり1on1から始めたわけではありません。その前に、管理職として必要なマネジメントの基本について研修を行いました。
まず知識を学ぶ。そのうえで、「自分自身のマネジメントはどうだろう」「自分の職場では、実際に何が起きているだろう」と面談で振り返る。この順番にしています。
研修を受けて「分かった」と思うことと、実際の職場でできることには距離があります。相手も違えば、部署の状況も違います。日常業務との兼ね合いもあります。
そのため、一般的なマネジメントの知識を、自分自身の仕事や職場に引き寄せて考える時間が必要です。1on1は、研修で学んだことと、実際の現場をつなぐ機会にもなります。
30分でも、仕事の話だけを聞かない
今回の1on1は、一人約30分。限られた時間なので、あらかじめ「どんなことを話すのか」はお伝えしていました。
最近の仕事のことだけではなく、チームや職場の状態、自分自身について、これからについてなど、いくつかの観点から話を聞きます。
ただし、用意した項目を上から順番に質問していくわけではありません。ここは、実際に1on1を行ううえで重要なところです。
面談というと、「どんな質問を用意すればいいですか?」という話になりやすいのですが、質問項目を準備するだけでは、十分に話を引き出せるとは限りません。むしろ質問が続くと、聞き取り調査のようになり、相手が話しにくくなることもあります。
相手の話を聞いたうえで、必要に応じてフィードバックをしたり、情報を提供したり、ときにはこちらの経験を少しお話ししたりする。そうしたやり取りをしながら、「この人になら、もう少し話してもいい」と思ってもらえる関係をつくっていきます。
何を質問するかと同じくらい、どの話を深く聞くのか、どう受け止めて返すのかが重要です。
「できていない」という言葉だけでは分からない
今回の面談でも印象的だったことがあります。研修後の実践について聞くと、「まだ十分にできていないと思います」と話す方がいました。
ところが、具体的な仕事の場面を聞いていくと、部下に合わせて伝え方を変えていたり、仕事の任せ方を工夫していたりする。本人は「できていない」と思っていても、話を掘り下げると、すでにできていることが見えてくるのです。
そこで、「今のお話は、まさにマネジメントとして実践できている部分ですね」とお返しすることもあります。
これは、「できていますか・できていませんか」というアンケートだけでは分かりにくい部分です。
1on1では、本人の自己評価だけで判断するのではなく、具体的な行動まで聞いたうえで、その人の強みや課題を見ていくことができます。
課題を把握するだけでなく、本人も気づいていなかった「できていること」を言葉にして返す。それによって、自分のマネジメントを客観的に捉え直す機会にもなります。
「特に困っていない人」と話すことにも意味がある
組織課題を把握するというと、困っている人や問題が起きている部署に目が向きがちです。
しかし、今回の面談では、「仕事は比較的うまく回っている」「今の環境には恵まれていると思う」と話す管理職の方もいました。そうした方との面談にも、重要な情報があります。
なぜ、そのチームはうまくいっているのか。普段どんなことを意識しているのか。何が他の職場と違うのか。話を聞いていくと、その人が自然に実践しているマネジメントの工夫が見えてきます。
また、自分の部署が比較的うまく回っている人だからこそ、視野が組織全体に広がり、「この仕組みは良いと思う」「ここはもう少し改善できるのではないか」といった意見が出てくることもあります。
組織課題を知るためには、問題がある場所だけを見るのではなく、うまくいっている場所も見ることが大切です。
管理職自身にも、話す機会が必要
もう一つ、面談を通して改めて感じたことがあります。
管理職は、普段「相談される側」です。部下の話を聞き、仕事を調整し、問題が起きれば対応する。ところが、自分自身が抱えていることをじっくり話す機会は、それほど多くありません。
特に今回のような地域福祉に関わる現場では、人を支える仕事に携わる職員を支えながら、管理職自身もさまざまな調整や判断を担っています。
特に部下育成やチーム運営に関する悩みは、部下には話せませんし、内容によっては直属の上司にも話しにくいことがあります。
今回も、普段なかなか話せないことを話したあとに、「話を聞いてもらえてよかった」という反応がありました。
今回の1on1の主目的は組織課題の把握ですが、結果として、管理職自身のメンタル面のフォローや、頭の中を整理する時間にもなっていると感じます。
自社だけでは把握しにくい課題がある
組織課題を把握するのであれば、「人事が直接聞けばいいのでは?」と思う方もいるでしょう。もちろん、社内で話を聞くことには大きな意味があります。
ただ、社内だからこそ出てこない話もあります。
例えば、会社が決めた制度や施策について、「実際には現場ではあまり機能していない」「こういうところが使いにくい」と思っていても、その施策を決めた上司や経営側には言いにくいことがあります。また、評価や人事に影響するのではないかと思えば、話す内容を選ぶ人もいるでしょう。
利害関係の薄い外部の第三者だからこそ、出てくる話があります。
ただし、ここで重要なのは、面談で聞いた内容をそのまま会社へ伝えることではありません。「誰が何を言ったか」ではなく、複数の面談から、次のような組織全体の傾向を捉えていくことが大切です。
- どんなところで管理職が困っているのか
- 部下育成のどこに難しさがあるのか
- 現在の施策は現場でどう受け止められているのか
- うまくいっている職場にはどんな特徴があるのか
安心して話せる場をつくることと、そこで見えたことを組織改善につなげること。この両方を成立させる必要があります。
1on1は、実施して終わりではない
今回の取り組みで特に重要なのは、1on1そのものがゴールではないことです。目的は、あくまで組織課題を把握し、その後の人材施策につなげること。
- 研修でマネジメントの基本を学ぶ
- 1on1で、自分自身のマネジメントと職場の状態を振り返る
- 見えてきた傾向を整理し、次に必要な人材育成や組織づくりを考える
- 必要に応じて、その後の支援や人材施策へ橋渡しする
こうして、研修や面談を単発で終わらせず、次の支援につなげていきます。
人材育成は、一度研修を実施すれば完了するものではありません。学んだことを現場で実践し、振り返り、困ったときには相談できる。そうした仕組みまで含めて考えることが必要です。
管理職1on1を依頼する前に、まず目的を決める
管理職1on1を外部に依頼するとき、「どんな質問をしてもらうか」から考える必要はありません。
それより先に考えたいのは、「この1on1を通じて、組織の何を知りたいのか」です。
- 組織課題を把握したいのか
- 管理職の育成状況を知りたいのか
- 管理職自身のフォローを重視したいのか
目的が違えば、面談の設計も、聞き方も、その後の活かし方も変わります。
また、実際の面談では、決められた質問をするだけでは十分ではありません。相手の言葉のどこを深掘りするのか。本人が「できていない」と言ったとき、その言葉をどう捉えるのか。どこまでフィードバックし、どこから本人自身に考えてもらうのか。安心して話してもらいながら、個人の話を組織課題の把握へどうつなげるのか。こうした判断が、その場その場で必要になります。
管理職1on1は、単に「一人ずつ話を聞く施策」ではありません。
現場で何が起きているのかを知り、次に何をするべきかを考えるための一つの方法です。
人材不足や定着、管理職育成など、人に関する課題に対して何か施策を始める前に、まず自分たちの組織の現在地を知る。そのための方法として、第三者による管理職1on1を取り入れることも、一つの選択肢だと考えています。
この記事について
M・Tコンサルティング金沢拠点では、企業・組織の人材育成支援、管理職1on1、現場の声をもとにした組織課題の整理に関わっています。研修だけを単発で提供するのではなく、現場の状況を把握し、その後の人材施策へつなげる立場から本記事をまとめました。
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